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愛知県版レッドデータブックの意義(動物編)

 野生生物は、各地域の自然環境特性に適応して生息・生育していることから、これらの野生生物を的確に保全し生物多様性の確保を図るためには、全国的な情報と併せ、県等の行政区画単位で地域特性ごとに情報整理を行う必要がある。
 環境省作成のレッドデータブック(レッドリスト)は、全国の生息・生育状況を基準として「絶滅のおそれの程度」を評価しているが、本県の場合には県内の状況に併せ、愛知県としての環境特性や開発圧の強度などの地域特性を考慮して、絶滅のおそれを評価した。
 また、レッドデータブックでは、絶滅の危険性に加え保護上の優先度も示す必要があるが、絶滅の危険度と保護上の優先度は、特定の地域を対象とした場合には必ずしも一致しない。
 例えば、ニホンザルは、世界的に見れば地球の北限で生息するサルとして希少であるが、国内では農業被害をもたらしており、有害獣として駆除される場合もある。また、全国的には希少種であるチュウサギ(鳥類、国リスト:準絶滅危惧)は本県では対象外と判定されている。逆に全国的には絶滅のおそれは少ないとして環境省のレッドリストには記載されていないコノハズク(鳥類)は、本県の生息状況から繁殖個体群については絶滅のおそれの最も高い絶滅危惧ⅠA類と判定されている。
 さらに、選定基準の本県の特徴としては、生息環境の減少率や、開発や捕獲などの人為的圧力による種の絶滅の危険性の評価に加え、本県における生息状況が種の存続に影響力を持つと考えられる種等について「地域固有性」の評価を加えており、世界的に見てもこの地域の生息状況が重要な意義を持つ種の保存を積極的に図ることとし、保護の優先度を加味した。
 環境省のレッドデータブックでは、日本が島国であり地理的にある程度孤立していることもあって、このような地域性は考慮しないという方針で作業が進められたが、隣接地と地続きの愛知県のような地域を対象とする場合には、絶滅の危険度と保護上の優先度の間のずれは無視できない問題である。
 例えば、渡り鳥であるシギ科のように愛知県では比較的まとまってみられる種でも、本県が限られた繁殖地や越冬地であることから、飛来数の減少はその種全体の存続に大きな影響を与えることが予想され、保護上の優先度は高くなる。
 また、本県の特徴的環境である湿地に生息するヒメタイコウチ(昆虫類、国はリスト外、県リスト:準絶滅危惧)や、我が国での分布域の東端であるオオサンショウウオ(両生類、国リスト:絶滅危惧Ⅱ類、県リスト:絶滅危惧ⅠB類)なども本県での保護の優先度は国全体で見た場合より高い。
 以上のとおり愛知県版レッドデータブックは、地域的実情が異なる中での野生生物のきめ細かい生息状況を把握し、その情報を広く県民へ周知し本県固有の自然環境保全への配慮を促す等の役割を担うものである。
 愛知県では、平成13年度にレッドリスト動物編を公表し、これを元に同年度に「レッドデータブックあいち動物編」をとりまとめた。その後、見直し作業を行い、平成20年度に「レッドデータブックあいち2009動物編」をとりまとめ、平成26年度に第三次レッドリスト「レッドリストあいち2015」を公表した。さらに専門家で構成する「愛知県絶滅危惧種等調査検討会」を中心に見直し作業を進め、令和元年度には「レッドデータブックあいち 2020 動物編」(本書)としてとりまとめた。