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「レッドデータブックあいち2020植物編」に関するQ&A

 第四次レッドリスト(案)(平成31年4月に公表)に対して寄せられた主な質問、意見等について、回答(補足説明)を以下に掲載した。平成12年度版レッドリスト(平成13年2月に公表)、第二次レッドリスト(案)(平成19年11月に公表)に対して寄せられた主な質問、意見等への回答も、必要に応じ再録した。

【Q1】愛知県版レッドリストのカテゴリーは、環境省レッドリストのカテゴリー区分と同等であると考えてよいか。
【A1】レッドリストのカテゴリーには国際自然保護連合で作成した基準があります。環境省ではこの基準を踏まえ、日本の実情にあわせた評価方法により判定を行っています。愛知県レッドリストの場合は、日本全体に比べて個体数や集団数はより精度が高い情報が得られるが減少率に関しては情報が少ないこと、地域が狭いため減少率に対する偶然の変動の影響が大きくなり、過去の減少率をそのまま将来に当てはめにくくなること、再侵入確率を考慮する必要があることなどのため、「評価方法の詳細」で述べたように、環境省リストとは異なる実務基準で評価を行っています。両者は、どちらも国際自然保護連合の基準に準拠したものであるという点ではほぼ同等ですが、厳密に言えば、上位ランク(特にCR)の判定に関して、環境省の実務基準のほうがかなり緩くなっています。これは、環境省の実務基準では上位ランクの判定に関して国際自然保護連合の基準より緩くなる傾向があるので、愛知県ではもう少しCR種を絞り込む必要があると考えたためです。

【Q2】「絶滅」の基準は、環境省のレッドリストでは過去50年未確認なのに、「レッドデータブックあいち2001植物編」では過去15年前後未確認、今回は過去35年前後未確認となっているのはなぜか。
【A2】愛知県では拠点となる自然史博物館がなく、標本蓄積体制が確立されていないため、過去の記録の多くはその真偽が確認できません。維管束植物の場合は、愛知県植物誌調査会によって準備段階を含めると1985年頃から県内全域の詳細な調査が行われ、ほとんどの種について現状が確認されています。そこで、その時以降現在まで確認できない種を絶滅と判断しました。今後の改訂では未確認期間を次第に伸ばし、2035年には環境省と同じ「過去50年未確認」にしたいと考えています。しかし未確認期間を延ばすと、ニホンジカによる食害などのために実際には絶滅しているにもかかわらず、絶滅と判定されない種が多くなってしまいます。こちらの方が、むしろ問題になるかもしれません。コケ植物については、維管束植物にあわせて同じ基準を採用しました。

【Q3】評価基準のうち個体数、集団数以外の項目は具体的な数値基準が示されていないが、なぜか。また、実際の評価作業ではどのような基準で判定したか。
【A3】愛知県では過去の自然環境に関する情報が蓄積されておらず、そのため減少率に関する十分な数値情報を得ることができません。そこで、個体数、集団数以外の3項目については、やむを得ず定性的な判断基準を採用しています。定性的な判断基準については、778頁の表8に示しています。

【Q4】最近個体数が減少していない、あるいは増加している植物は、いくら現存個体数が少なくても、その状態が続く限り永久に絶滅しないはずである。それなのに絶滅危惧種にされているものがあるのはなぜか。
【A4】レッドデータブックの評価における減少率は、国際自然保護連合の基準により、10年間または3世代の長い方で見ることになっています。多年生草本や樹木は3世代の方が長いため、少なくとも20〜30年の観察が必要ですが、それほどの期間の観察情報は愛知県にはほとんどありません。また、レッドデータブックの対象範囲が狭くなるにつれて該当種の生育地点数が少なくなるので、今までの減少傾向をそのまま外挿的に当てはめて将来を予測することも困難になります。例えば、県内に1カ所しか自生地がない植物は、今まで減少していなくても、あるいは増加していても、ある日その場所が開発されれば即絶滅です。従って愛知県版レッドデータブックでは、その植物の個体数の減少傾向のかわりにその植物が生育している環境の減少傾向を用いて評価を行っています。一部の腐生植物は里山の森林化に伴って増加していますが、この場合でも里山の二次林自体は減少傾向にありますから、生育環境はやや減少(評価点3)としました。

【Q5】愛知県産の維管束植物のうち2割が絶滅危惧というのは、多すぎないか。また、1回の環境影響評価で10も20もの絶滅危惧植物が確認されるのは、選定基準がおかしいからではないか。
【A5】絶滅危惧Ⅱ類の基準は100年後の絶滅確率10%以上です。2割の10%は2%になります。上位カテゴリーに評価された種を考慮しても、このまま何も保護対策がとられない場合、100年後に愛知県産維管束植物の数%が絶滅するというのは、むしろ控え目にすぎる見積もりです。また愛知県の丘陵地は、全国的に見ても絶滅危惧植物が特に集中している場所の一つです。丘陵地の調査ならば、多数の絶滅危惧植物が記録されるのはむしろ当然のことです。

【Q6】自然林は愛知県では僅かしか残存していない貴重な原始的自然であり、重要性も高いのに、どうして評価点を4でなく3としたのか。
【A6】愛知県の自然林は、第二次大戦終了直後に大幅に伐採され減少しましたが、最近20〜30年間はそれほど減少していません。現在残存しているものについてはそれなりに保護対策がとられていること、自然林は安定した生態系であり、放置した状態で消失するおそれは少ないことなどから、その前に大幅に減少したことを考慮しても、「著しく減少傾向」には該当しないと判断しました。

【Q7】地域により(例えば東三河山間部と尾張平野部で)著しく状況が違うものについては、どのように対処したか。
【A7】環境省レッドリストは基本的に全国1区という考え方で作成されており、愛知県リストでも基本的に全県1区という考えで評価を行いました。ただし、特に地域による状況の差が著しいものについては、種の解説の中で言及するよう努めました。県内での地域性に十分対処するためには、国リストに対して県リストが必要なのと同様、県リストに対して市町村レッドリストを作成する必要があります。名古屋市では、県リストとの整合性を考慮した独自のレッドデータブックを作成しています。他の市町村においても、国リスト、県リストと整合性のとれたレッドデータブックが作成されることを期待しています。

【Q8】ハマオモトは絶滅にランクされているが、県内ではあちこちで栽培されているので「野生絶滅」とするべきではないか。また、モリアザミは絶滅にランクされているが、県内で食用として栽培されていないのか。
【A8】ハマオモトは伊良湖岬に自生していたと言われていますが、現地では絶滅し、どこかで確実に伊良湖岬産の個体が系統保存されているという事実も把握できなかったため、絶滅と判定されました。現在愛知県内で植栽されている個体は県外から持ち込まれたものと思われ、逸出したものも含めて、評価の対象になりません。なお、今回のリストでは、愛知県には野生植物の系統保存をきちんと行っている公的機関が存在しないため、「野生絶滅」は「絶滅」から区別しませんでした。しかし、仮に区別しても、ハマオモトは「野生絶滅」ではなく「絶滅」と判定されます。モリアザミも県内で栽培されており、逸出して野生状態になっているものもありますが、これらはハマオモトと同様、評価の対象になりません。レッドデータブックで評価の対象となるのは、愛知県に自然状態で生育していた個体群です。

【Q9】移植により保護されているものはどう扱われたか。
【A9】基本的に「絶滅」扱いです。レッドデータブックでは、本来の生育地での生育状態が評価対象です。移植等により本来の生育地と異なる場所に生育しているものは、国際自然保護連合の指針により、一見自然状態になっていても「野生絶滅」と判定することとされています。

【Q10】スナビキソウは、「レッドデータブックあいち2001植物編」では絶滅危惧ⅠA類とされているが、群落の状態はそれほど変化していないのになぜ絶滅危惧ⅠB類に変更されたか。(2009年版への質問を再録)
【A10】スナビキソウが生育している砂浜は、2001年当時には中部国際空港建設に伴う潮流の変化で浸食が危惧されていました。また当時は、空港建設に伴い海岸部の開発圧力が高く、人為圧階級は3(強い開発圧がある)と判断されました。しかし、結果的に砂浜はそれほど浸食されず、最近は開発圧もやや低下しており、今回の人為圧階級は2(開発圧がある)に変更されました。そのため、他の4項目(個体数、集団数、生育環境、固有度)は変化していないのですが総点が16から15に減少し、評価も絶滅危惧ⅠA類から絶滅危惧ⅠB類に変更になりました。スナビキソウ以外の評価変更も、5項目のいずれかの階級値に変化が生じた結果です。

【Q11】コアマモは干潟や河口部の水路など、開発や汚染の影響を受けやすいところに生育している。それなのに今回のレッドレータブックに掲載されなかったのはなぜか。(2009年版への質問を再録)
【A11】海産種子植物は全般的に情報量が少なく、判定が困難です。そのためコアマモは、環境省2000年版レッドデータブックでは情報不足(DD)と判定され、それを受けて「レッドデータブックあいち2001植物編」では固有度階級を2と見なして総点11、準絶滅危惧と判定しました。ところがコアマモについては、情報不足と判定されたということもあって全国的に情報の蓄積が進み、環境省2007年版レッドリストではリスト外になりました。従って、愛知県での固有度階級も1に変更になり、総点10、リスト外と判定されることになりました。愛知県においても、県民の皆様からの情報提供を受けて現地調査を行った結果大きな群落がいくつか確認され、あえて特殊事情として1を加えることはないと判断されました。情報を提供してくださった方はおそらく本種を保全するために役立ててほしいと思っていたでしょうから、せっかく県に教えたのにリスト外となるのはどうしても納得できないという気持ちになると思います。しかし、レッドデータブックの客観性を確保することは、長期的に見れば生物多様性を保全する上で重要なことだと思われます。

【Q12】クサナギオゴケは愛知県にゆかりの深い植物であり、尾張地方では希少で保全の重要性も高いと思われるのに、なぜNTと評価されたか。
【A12】クサナギオゴケは尾張、西三河では確かに少ない植物ですが、東三河南部では比較的多く、県全体としてみると個体数は明らかに1,000以上(階級1)、集団数も15程度(階級2、ただし1に近い)あります。全国的に少ない植物ですが、分布の限界ではありません(階級2)。主要な生育地が安定した二次林(階級3、ただし造林地にもあるので、正確には2に近い3)であること、相当程度開発、伐採等の圧力があること(階級3)を考慮しても辛うじてNTであり、愛知県が基準標本産地であることを加味してもVUにはならないと判断されました。尾張、西三河で希少であることは、解説で言及しています。

【Q13】ヌマアゼスゲが長久手市にあったと言われている。絶滅種にリストアップしてほしい。
【A13】ヌマアゼスゲについては、責任のはっきりした文献では記録されておらず、また現在のところ裏付けとなる標本も確認できません。アゼスゲによく似た種類であるため、誤認の可能性もあります。要するに、「過去に存在した」という確証がなく、その結果として「絶滅した」とも判断できません。このような場合、「あった」、「なかった」というのは水掛け論です。観察記録を自然環境情報として活用するためには、必要な時にいつでも記録の真偽を再確認できるよう、必ず裏付けとなる標本を作成し、しかもそれを私蔵せず、博物館・大学などの公共標本室で保管しておく必要があります。

【Q14】レッドリスト作成のための調査の過程で膨大な資料が集まるが、レッドリストのみが作られ、リストに掲載されない普通種や他地域からの移入種に関する標本ラベル等を掲載する資料が添付されない、あるいは記録として残らないため、地域での生物相の変遷が部分的にしかつかめない。現地でフィールドワークを行う者が今後の調査に活かせるよう、現在県内で確認されている全種についての標本ラベルや既知産地等が掲載されるような資料を合わせて作ってほしい。普通種を始め、現時点で確認できるラベルを地域ごとに掲載することで、その地域での開発の変遷や環境の変化に至るまで読み解くことができるものと思われる。
【A14】ご指摘の問題に対応するため、愛知県では2017年に維管束植物、2018年に脊椎動物、昆虫類、クモ類、苔類のグリーンデータブック(全種目録+指標種解説)を刊行しました。しかし、昨今の印刷事情もあって、苔類を除くと各種のラベル情報までは収録しておりません。生物多様性に関する情報は、誤同定の可能性もあり、文献をそのまま引用できないことがあります。各著者に問い合わせるなどして、できるだけ根拠となった標本に当たった上で(ラベル情報はその時にわかるはずです)、引用していただければ幸いです。

【Q15】ヒロハテンナンショウとして評価している種は、Arisaema ovale Nakai var. sadoense (Nakai) J.Murataと異なるのか。
【A15】ご指摘の学名の元になるArisaema sadoense Nakaiの基準標本は、ヒロハテンナンショウではなく、ヒロハテンナンショウとキタマムシグサの雑種です。ヒロハテンナンショウにA. ovale var. sadoenseの学名を用いるのは誤りです。ヒロハテンナンショウは、アシウテンナンショウから変種の階級で区別するならば、まだ適切な学名がありません。