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「レッドデータブックあいち2020動物編」に関するQ&A

 第四次レッドリスト(案)(平成31年4月に公表)に対して寄せられた主な質問、意見等について、分類群ごとに回答(補足説明)を以下に掲載した。平成12年度版レッドリスト(平成13年2月に公表)、第二次レッドリスト(案)(平成19年11月に公表)に対して寄せられた主な質問、意見等への回答も、必要に応じ再録した。

1.哺乳類

【Q1】ツキノワグマの分布域が実際に生息していると思われる地域よりも広くみえるのはなぜか。
【A1】ツキノワグマはかつては県内に定住個体がいましたが、長らく生息確認がありませんでした。近年になり、隣接した県からの「わたり」と考えられる個体が発見されているほか、平成20年10月には新城市で2頭の子グマも発見されています。その後も、子連れの雌グマが奥三河地域で目撃されることがたびたびあり、こうした個体の一部はすでに愛知県内での定住や繁殖さえ行われている可能性が高いと考えられます。しかしながら、こうした状況は奥三河地域のごく一部で始まったばかりであり、他の地域における目撃例の大部分は定住個体でないものが偶然に目撃されたものと考えられます。今回ツキノワグマの県内分布図として示されたものは、こうした「目撃例のあった地点」の記録地であるため、定住個体の生息する地域よりも大幅に広い部分が示されていると考えられます。ツキノワグマが継続して生息できるためには生物多様性に富む「豊かな」森林環境が必要で、ツキノワグマが生息していることは自然環境の「豊かさ」を表しています。ツキノワグマが定住して繁殖も可能になるためには、県内における豊かな森林環境を回復することが必要だと思われます。

【Q2】愛知県で記録されたクジラやイルカは多数あると思うが、スナメリ以外はリストに入っていないのはなぜか。
【A2】2000年(平成12年)2月21日に名古屋港でみつかったシャチをはじめとして、愛知県の海域では、シャチを含めて6科16種のクジラ目(イルカとクジラの仲間)、 海牛目のジュゴン、 海生の食肉目ではアザラシ科3種、アシカ科2種としてオットセイのほか県内で絶滅したアシカが記録されています。これらのうち、スナメリとアシカ以外は「定住している(いた)」とは言いがたいのでリストには入れませんでした。愛知県で記録されたことのある海獣類を含む哺乳類の一覧は愛知県環境部自然環境課によって編集・発行された「グリーンブックあいち2018」に掲載されています(子安ほか, 2018)。クジラ目の哺乳類の記録は、「ストランディング」(海浜における打ち上げ)の記録によることが多く、愛知県の海浜および海域を生息域とするものについては、今後のストランディング記録の集積によってリストへの掲載が考慮される可能性があります。

2. 鳥類

【Q1】鳥類のみが「繁殖」個体群と「通過」・「越冬」の個体群に分けて評価を行い、「表4 各評価項目の評価基準(鳥類)」で、「注:繁殖の評価に関しては、繁殖している雌の推定個体数とする。」としているのはなぜか。また、「通過」・「越冬」の個体群の評価は雄を含む推定全個体数を用いているが、繁殖を雌の推定個体数×2にしないと繁殖・非繁殖の整合性がとれないのではないか。
【A1】鳥類は移動能力が高く、分布範囲の広い種が大半ですが、それに比較すれば愛知県の面積はかなり狭いものです。県内で繁殖する個体数と、通過や越冬などで確認される数との間に大きな差異がある種は少なくありません。そこで、鳥類の中でも県内で繁殖する種については、「繁殖」個体群と「通過」や「越冬」の個体群を別個に評価しています。 「繁殖」個体群の中には、コアジサシやセイタカシギなどのように繁殖成功率が低く不安定で、その年に巣立ちできるヒナの数が、繁殖期に県内に生息している成鳥の数よりも、営巣できる場所の有無やその年の気象、天敵の有無などに大きく左右される種があります。また、タカ類やオシドリなど、繁殖期に繁殖できない個体が生息している種も少なくありません。「繁殖」個体群の評価基準については「繁殖している雌の推定個体数」と記しましたが、実際には繁殖期に県内に生息している個体数や、営巣を試みた数ではなく、「ある程度繁殖に成功したと推定される巣数」を評価しています。県内の鳥類で一妻多夫の繁殖形態をとるタマシギについては、厳密には「繁殖している雄の推定個体数」ということになります。繁殖・非繁殖の推定個体数の整合性については、次回の見直しで検討します。

【Q2】シギ・チドリ類の中には、タゲリやトウネン、ヒバリシギ、アメリカウズラシギ、サルハマシギ、タシギ、アカエリヒレアシシギなど、絶滅危惧種と同様に、県内では以前に比べて著しく生息数が減少している種があるが、絶滅危惧種に評価されないのはなぜか。
【A2】これらのシギ・チドリ類をはじめ、絶滅危惧種に評価されても不思議ではない種は他にも数多くあると思われますが、これまでに絶滅危惧種に評価されているシギ・チドリ類の生息環境が改善されれば、これら7種のシギ・チドリ類のみならず、同様の環境に生息する水鳥の生息環境は改善されますので、とりあえずは、すでに絶滅危惧種として評価されている種の生息環境について、具体的な保全措置が実施されることの方が重要と思われます。

3.爬虫類

【Q1】シロマダラとタカチホヘビは非常に珍しい希少種ですが、なぜ絶滅危惧ではなく、情報不足なのか。
【A1】希少種すべてが絶滅危惧の状態であるとは限りません。これらの種は、県下にかなり広く分布すると考えられますが、夜行性のため、評価するだけの情報が十分ではありません。このため、情報不足と判定されました。

【Q2】ニホンヤモリは奥三河にいないということですが、リストに掲載してはどうか。
【A2】ニホンヤモリは本来住宅地周辺に生息しており、市街地でもよく見られます。また繁殖力も旺盛であり、減少の傾向もみられないためリストの対象外と評価されました。

4.両生類

【Q1】アカハライモリ渥美種族は地域個体群(LP)ではないのか。
【A1】アカハライモリ渥美種族は、現在はアカハライモリの一部として捉えられていますが、他地域のアカハライモリと形態学的に区別できることに加え、遺伝的にも大きく異なっており、種に準ずるレベルで扱うことのできる集団です。また、かつては知多、渥美両半島に生息していたと考えられていますが、現在確実に知られている産地は知多半島の1地点のみとなっており、この地点においても周囲の環境が悪化していることから、絶滅のおそれがきわめて高い集団です。以上の状況を勘案し、地域個体群(LP)よりも絶滅危惧ⅠA類(CR)として扱うのが妥当であると判断しました。

【Q2】ネバタゴガエルは評価しないのか。
【A2】2014年に新種記載されたネバタゴガエルは、その記載論文によれば鳴き声の周波数と染色体数で姉妹種タゴガエルから識別できるとされ、本県下では豊根村、設楽町、旧足助町がその産地とされました。しかし、本県下のタゴガエル類を詳しく調べると、大多数はいわゆるネバタゴガエルと同定できる集団ですが、県北部には「音声はネバタゴガエルだが染色体数はタゴガエル」との特徴を示す集団が存在し、その境界付近には両者の中間の染色体数を持つ個体も頻出するため、そのありようは単純ではありません。少なくとも本県下においては、狭義のタゴガエルと同定できる集団は発見されておらず、現時点では保全上県下のタゴガエル類を複数の集団に分けて扱う必要はないと考えています。県下のタゴガエルを単一種として扱うのであれば、この種は全県下の丘陵地、山地域の渓流沿いに広く生息し、現時点で絶滅が危惧される状況にはないため、リスト外としました。

5.汽水・淡水魚類

【Q1】アオギスは過去に伊勢湾に生息していた可能性があるため、愛知県レッドリストに掲載されるべきではないか。
【A1】愛知県レッドリストは県内で生息確認記録がある動植物を評価対象としています。加えて、汽水・淡水魚については、写真や標本の残されていない種の記録は誤同定の可能性があるため、レッドリストの評価対象としていません。伊勢湾に過去に生息していた可能性のあるアオギスは、まず写真・標本がありません。さらに、愛知県内で捕獲されたことを示す具体的な記録もありません。このため、評価対象とすることはできませんでした。確かに、過去に伊勢湾にアオギスが生息していたならば、三重県だけでなく愛知県にも分布した可能性は高いと考えられます。そのため、もしも今後、調査等により愛知県内にアオギスが生息していたことを示す記録が得られましたら、レッドリストの評価対象とすることを考えます。

【Q2】タニガワナマズが愛知県レッドリストに記載されていない理由は。
【A2】本種は、「谷川」という名前でイメージするほど小さな河川や沢に生息する魚類ではなく、河川上流部の水量が比較的多い河川にいるとされます。岐阜県では木曽川や飛騨川のダム湖や周辺支流で確認されています。大型のダムが山間部に建設されると、ネコギギやアジメドジョウの生息場所は減少するかもしれませんが、逆にタニガワナマズの生息量は増える可能性が高いと考えられます。従って、矢作川や豊川に設置されている多くの大型ダムはタニガワナマズに顕著な負の影響を及ぼしていない可能性があり、現状ではリスト外と評価されました。しかし、今後の調査結果次第ではレッドリストに掲載することを検討します。

6.昆虫類

【Q1】レッドリスト作成のための調査の過程で膨大な資料が集まるが、レッドリストのみが作られ、リストに掲載されない普通種や他地域からの移入種に関する標本ラベル等を掲載する資料が添付されない、あるいは記録として残らないため、地域での生物相の変遷が部分的にしかつかめない。現地でフィールドワークを行う者が今後の調査に活かせるよう、現在県内で確認されている全種についての標本ラベルや既知産地等が掲載されるような資料を合わせて作ってほしい。普通種を始め、現時点で確認できるラベルを地域ごとに掲載することで、その地域での開発の変遷や環境の変化に至るまで読み解くことができるものと思われる。
【A1】ご指摘の問題に対応するため、愛知県では2017年に維管束植物、2018年に脊椎動物、昆虫類、クモ類、苔類のグリーンデータブック(全種目録+指標種解説)を刊行しました。しかし、昨今の印刷事情もあって、苔類を除くと各種のラベル情報までは収録しておりません。生物多様性に関する情報は、誤同定の可能性もあり、文献をそのまま引用できないことがあります。各著者に問い合わせるなどして、できるだけ根拠となった標本に当たった上で(ラベル情報はその時にわかるはずです)、引用していただければ幸いです。

【Q2】2018年発行のグリーンデータブックでは、愛知県に生息する昆虫類として、10,443種が記録されている。今回のレッドデータブック掲載種は、昆虫類が213種(国リスト種を除く)である。それに対して貝類は、グリーンデータブックに掲載されていないために県内総種数ははっきりしないが、1,000種程度と思われる。それなのに今回のレッドデータブック掲載種は、昆虫類を上回る275種である。貝類の主要生息域である平野部の河川・池沼や内湾の浅海域の環境は確かに危機的であるが、その一方で近年は一時に比べ水質の改善も進んでいる。この数は、どう見てもバランスを欠いている。今回のレッドデータブックでは、各生物群を通して同等の評価が行われているのか。
【A2】「各生物群を通して同等の評価が行われているのか」と問われれば、残念ながら「否」と答えざるを得ません。昆虫類は種類数が極めて多く、その割に調査研究者は少数です。昆虫類は成長の過程で変態しますが、幼虫期の生態が分かっていないものもたくさんあります。今回の評価は、対象を「ある程度生活環が解明されている種」に限定して行っています。また、昆虫類はグループ間で調査の粗密が著しく異なっています。定義上は情報不足に該当する確認例が極めて少ない種も多数ありますが、それらのうちかなりの部分は調査者が少ないためだと思われます。このような種は、現状では評価の対象とすることが困難です。要するに昆虫のレッドリスト掲載種が総種数の割に少ないのは、「未評価種」が極めて多いためです。全ての昆虫類が評価の対象になれば、おそらくは1,000を超す種がレッドリストに掲載されると思われます。

7.クモ類

【Q1】最近、都市公園等でジグモが少なくなったように思う。準絶滅危惧種くらいに取りあげてはどうか。
【A1】確かにジグモは身近なクモですから、生息地の開発や農薬・除草剤の散布などの影響のある場所では減少傾向にあると思います。しかし、これらの影響のない場所も多く、今でも庭・校庭・公園などに多数生息している地域が各地に見受けられますので、今回はレッドリストに掲載しませんでした。

8.貝類

【Q1】ハマグリはスーパーマーケットなどでたくさん売られているのに、愛知県のレッドデータブックでは準絶滅危惧種に評価されているのはなぜか。
【A1】確かにハマグリはアサリと並んで最も普通な食用二枚貝でした。しかし、それは愛知県では1960年代までで、近年市場に出ているハマグリ(この類の総称)は、そのほとんどがハマグリ(総称ではなく標準和名のハマグリ:日本在来の内湾性種)ではなく、多くは中国や朝鮮半島から輸入されたシナハマグリです。また、外洋に主分布域を持つ在来種のチョウセンハマグリも地ハマグリ(国内産ハマグリの意味)として市場に出ますが、ハマグリとは生物学的に明らかに別種です。最近では韓国で大きな内湾域の埋立が行われシナハマグリの量も少なくなってきたためか、台湾産のタイワンハマグリ、ベトナム産のミスハマグリ(商品名:パンダハマグリ)等も市場で見かけるようになりました。 現在市場に本物のハマグリが出ることも比較的多くなってきました。しかし、九州産が多いようです(熊本県や大分県にはハマグリの健全な個体群が現在も保存されている)。著名な三重県桑名産のハマグリも回復傾向が伝えられ、市場に出ることもありますが、まだまだ生産量は少なく、非常に高価に取り引きされています。愛知県では前回のレッドデータブック発刊時(2009)以降の調査や今回の見直し調査の結果、一部水域で著しい回復傾向が認められたため、絶滅危惧種から準絶滅危惧種にランクダウンとなりましたが、それでも1960年代以前の個体数(漁獲量)には程遠い状況です。

【Q2】内湾産貝類の生息場所のヨシ原湿地とは何か。
【A2】本書におけるヨシ原湿地とは、内湾奥の河口域の中潮帯付近より上部に発達したヨシ群落内の干潟と後背湿地を指し、人為的な改変を受けていないヨシ原湿地ではヨシ群落周辺の干潟、塩湖、感潮クリークとヨシ原群落より上部の陸上植生など複雑な生息場所が存在します(図1ヨシ原湿地の模式図:木村・木村,1999より改変)。

図1 ヨシ原湿地の模式図

TP:陸上植生,RC:アシ群落,BM:後背湿地,TC:感潮クリーク,TF:干潟,
M.H.S.T.:大潮平均高潮線,M.L.S.T.:大潮平均低潮線
図1 アシ原湿地模式図(木村・木村,1999より改変)

【Q3】内湾産貝類の調査に用いるドレッジとは何か。
【A3】潮下帯より深い海の底質や底生動物を採集する器具の1種です。生物採集用のドレッジでは、通常開口部に硬い金属などが用いられ、後部に生物を採集するための細かい目の網袋がついています。ロープやワイヤーなどの先にこの器具を付け、船で引きずり海底の生物を採集します。今回は三河湾から伊勢湾の潮下帯の貝類調査に使用しました。形式や大きさは様々ですが、漁業調整規則上は底引き網の一種とされ、その使用については、特別採捕許可が必要です。今回の調査では特別採捕許可を得て、開口部の幅が75 cmで内側の網地の目合いが5 mmのORI型(海洋研究所型)ドレッジを改良した(図2)ものを使用して調査を行いました。



図2 今回の調査で用いたドレッジ

9. その他

【Q1】レッドリストに新たな掲載種を増やすことはあまり関心がありません。ただ、リストアップするからにはきちんとした売買や採種の禁止などの法整備を進めるのが本来の環境行政の仕事であると思います。法整備無く、単に希少種を列挙することは、マニアや業者のための「珍品リスト」作成であり、現状では悪質な者のために役所は仕事をしていると言われても言い過ぎではないと思います。早急に法整備をお願いしたいと思います。
また、これらの標本を永久的に保存出来る県立の博物館も東海三県の中で愛知だけがありません。現状認識を改め、自然環境の保全や学問レベルについても他県から注目される県になってほしいと一県民として願います。
【A1】レッドデータブックを作成し、自然環境保全に対する啓発を図るとともに、レッドリストの成果を基に希少野生動植物種保護制度の整備を進めてまいります。