掲載種の解説 維管束植物(種子植物・シダ植物)
維管束植物(種子植物・シダ植物)
レッドリストに掲載された各植物について、種ごとに形態的な特徴や分布、県内の状況等を解説した。記述の項目、内容等は各分類群冒頭の凡例のとおりとした。準絶滅危惧種、情報不足種、国リストの種についても、これらが目にふれる機会が多いことを考慮し、絶滅危惧種とほぼ同じ様式で記述した。なお、維管束植物のニッケイ、ツツイトモ、ハマナツメ、サクラガンピは愛知県としては評価対象外であるが、国のレッドリストに掲載されていることから、「国リスト」に含めて県内の状況を記述した。
「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」の表記については、略称として「種の保存法」と表記することとした。また、愛知県の「自然環境の保全及び緑化の推進に関する条例」の表記については、略称として「県条例」と表記することとした。
執筆責任者は、凡例の後に表記した。ただし、編集者の都合で、一部加筆した場合もある。また、必要に応じ、2001年版及び2009年版の執筆責任者も表記した。
なお、ここで「執筆責任者」というのは「本書に書かれた内容に責任を持つ者」という意味で、「本書の文章を作成した者」という意味ではない。今回の「レッドデータブックあいち2020」は、2001年版及び2009年版の改訂版であるが、旧版との内容の一貫性を保つため、今回の執筆責任者が内容上特に問題がないと判断した部分については、原則として旧版の文章表現をそのまま踏襲することとした。
【 掲載種の解説(維管束植物)に関する凡例 】
【分類群名等】
対象種の分類上の位置を示す門、綱、科名等を各頁左上に記述した。科の範囲、名称、配列は、科内の種の配列と共に、レッドリストに従った。
【評価区分】
対象種の愛知県における評価区分を各頁右上に記述した。参考として「環境省レッドリスト2019」の全国での評価区分も各頁右上に記述した。また、各評価区分に対応する英文略号も同じ場所に記述した。
【和名・学名】
対象種の和名及び学名を各頁上の枠内に記述した。
【評価理由】
対象種の愛知県における絶滅のおそれの程度を評価した理由について記述した。評価の基礎になった個体数、集団数、生育環境、人為圧、固有性の階級値とその合計値も示した。
「国リスト」の種については【除外理由】として、対象種が愛知県では絶滅危惧種と判断されなかった理由を記述した。
【形 態】
対象種の形態の概要を記述した。この部分の記述は、特に断っていない限り全国的な資料に基づくものである。
【分布の概要】
対象種の分布状況について、県内・国内・世界での概要を記述した。県内の分布は、1985年以後に生育が確認された区画(5〜7頁参照)を略称で示し、区画毎に代表的な標本を1点引用した。引用標本は愛知みどりの会標本室に収蔵されているものを優先し、また原則として採集年月日の新しいものを優先したが、標本の状態等を考慮してこの原則によらなかった場合もある。引用は採集者氏名(ただし小林元男氏と芹沢は名を省略)、標本番号、採集年月日、標本の所在(ただし愛知みどりの会は表示省略)にとどめたが、その区画内の既知産地で絶滅が確認されたものについては採集地(市町村名はラベルに表記されているもの)を加えた。また、必要に応じて1985年以前に採集された標本はあるがその後生育が確認されていない区画、記録はあるが裏付けとなる標本が確認できない区画を付記した。詳細な分布情報を公表すべきでないと判断されたオキナグサとツゲについては、県内を尾張、西三河、東三河の3地域に分けて記述した。カンランについては、3地域に分けての記述も避けた。
標本の所在は、以下の略号で示した。これ以外のものについては、収蔵機関名をそのまま表記した。
無表示:愛知みどりの会(AICH)
CBM:千葉県立中央博物館
HNSM:新城市立鳳来寺自然科学博物館
KYO:京都大学総合博物館
MAK:首都大学東京牧野標本館
NBC:名古屋市立なごや生物多様性センター
TI:東京大学総合研究博物館
TMNH:豊橋市立自然史博物館
TNS:国立科学博物館
千葉県立中央博物館については、収蔵されている故井波一雄氏、稲垣貫一氏採集の標本はほとんど標本番号がないので、同館の維管束植物標本登録番号を併記した。なごや生物多様性センターについても、採集者の標本番号がないものについては同センターの登録番号を併記した。
県内分布図は図示せず、そのかわりに、絶滅種については過去に分布していた区画に対応するすべてのメッシュ(標準地域メッシュ・システムにおける5倍メッシュ)、それ以外の種については1985年以後に分布が確認されている区画地域(その後の調査で絶滅が確認されている区画を含む)に対応するすべてのメッシュを「要配慮地区図」として表示した。今回現行市町村に分けて枝番を付した区画については、枝番区画ごとの調査が不十分であるため、枝番を付さない区画単位で表示した。詳細な分布情報を示していない種については、尾張、西三河、東三河の3地域に対応する全てのメッシュを淡色で図示した。今となっては配慮のしようがないハマオモト、特に配慮を要しないニッケイ等は、「関連地区図」とした。標本情報が多い一部の種については、やむを得ず図を省略した。
【生育地の環境/生態的特性】
対象種の生育環境及び生態的特性について記述した。また、横に地形、縦におよその水条件(草・岩は草地・岩崖地等の略)をとった区分図に、主要な生育範囲を示した。岩崖地等の樹林を構成する種は森林、草・岩双方をマークし、湿地林の構成種は湿地のみをマークした。
【現在の生育状況/減少の要因】
対象種の愛知県における現在の生育状況、減少の要因等について記述した。
絶滅種については【過去の生息状況/絶滅の要因】として、対象種の愛知県における過去の生育状況、絶滅の主な要因について記述した。一部の近年増加が目立つ種は、【増加の要因】とした。
【保全上の留意点】
対象種を保全する上で留意すべき主な事項を記述した。
【特記事項】
異名、近似種との識別点、和名の語源等、以上の項目で記述できなかった事項を記述した。
【引用文献】
記述中に引用した文献を、著者、発行年、表題、掲載頁または総頁数、雑誌名または発行機関とその所在地の順に示した。
【関連文献】
対象種の理解の助けになる一般的文献を、著者、発行年、表題、掲載頁、雑誌名または発行機関とその所在地の順に掲載した。
多くの種に関連する文献については、以下の略号を用いた。
保シダ:田川基二, 1959. 原色日本羊歯植物図鑑. 保育社, 大阪.
保草本Ⅰ:北村四郎ほか, 1957. 原色日本植物図鑑 草本編Ⅰ. 保育社, 大阪.
保草本Ⅱ:北村四郎ほか, 1961. 原色日本植物図鑑 草本編Ⅱ. 保育社, 大阪.
保草本Ⅲ:北村四郎ほか, 1964. 原色日本植物図鑑 草本編Ⅲ. 保育社, 大阪.
保木本Ⅰ:北村四郎ほか, 1971. 原色日本植物図鑑 木本編Ⅰ. 保育社, 大阪.
保木本Ⅱ:北村四郎ほか, 1979. 原色日本植物図鑑 木本編Ⅱ. 保育社, 大阪.
平シダ:岩槻邦男, 1992. 日本の野生植物 シダ. 平凡社, 東京.
学シダⅠ:海老原淳, 2016. 日本シダ植物標準図鑑Ⅰ. 学研, 東京.
学シダⅡ:海老原淳, 2017. 日本シダ植物標準図鑑Ⅱ. 学研, 東京.
平草本Ⅰ:佐竹義輔ほか, 1982. 日本の野生植物 草本Ⅰ 単子葉類. 平凡社, 東京.
平草本Ⅱ:佐竹義輔ほか, 1982. 日本の野生植物 草本Ⅱ 離弁花類. 平凡社, 東京.
平草本Ⅲ:佐竹義輔ほか, 1981. 日本の野生植物 草本Ⅲ 合弁花類. 平凡社, 東京.
平木本Ⅰ:佐竹義輔ほか, 1989. 日本の野生植物 木本Ⅰ. 平凡社, 東京.
平木本Ⅱ:佐竹義輔ほか, 1989. 日本の野生植物 木本Ⅱ. 平凡社, 東京.
平新版1:大橋広好ほか(編), 2015. 改訂新版 日本の野生植物1. 平凡社, 東京.
平新版2:大橋広好ほか(編), 2016. 改訂新版 日本の野生植物2. 平凡社, 東京.
平新版3:大橋広好ほか(編), 2016. 改訂新版 日本の野生植物3. 平凡社, 東京.
平新版4:大橋広好ほか(編), 2017. 改訂新版 日本の野生植物4. 平凡社, 東京.
平新版5:大橋広好ほか(編), 2017. 改訂新版 日本の野生植物5. 平凡社, 東京.
環境省:環境省(編), 2015. レッドデータブック2014−日本の絶滅のおそれのある野生生物−8
植物Ⅰ(維管束植物). 株式会社ぎょうせい, 東京.
SOS旧版:愛知県植物誌調査会, 1996. 植物からのSOS−愛知県の絶滅危惧植物. 同会, 刈谷.
SOS新版:愛知県自然史研究連絡会, 2002. 自然からのSOS−レッドデータブックあいち・植
物編解説. 愛知みどりの会, 刈谷.
【 維管束植物 執筆責任者 】
芹沢俊介
【 維管束植物 調査協力者 】
今回のレッドデータブックは、主として愛知みどりの会に保管されている愛知県産維管束植物標本と、その採集者から聞き取った観察情報に基づき作成された。これらの標本は多くの方々の協力によって集積されたもので、愛知県植物誌調査会発足以降に愛知県の自然環境情報蓄積という目的を持って採集されたもののほか、レッドデータブック作成に使用されることを全く想定せずに採集されたものも多数含まれている。結果的に、この標本集積に協力してくださった方々が調査協力者ということになる。レッドデータブック掲載種であるか否かにかかわらず数点以上の標本を集積してくださった方々は、以下の通りである。
青山正宏 秋山葉子 浅野守彦 新井文子 粟田郁男 飯尾俊介 家田晴俊
石川 敏 石川静雄 石田雄吉 磯貝彰宏 一井尚子 伊藤昭康 伊藤恭子
伊藤静江 伊藤泰輔 伊藤三也 伊奈知子 犬飼 清 井上美保子 岩田妙子
上山秀郎 臼井里華 梅田零奈 遠藤浩三 太田さち子 太田由美子 大谷敏和
大西 博 大原準之助 大宮克美 岡島錦也 岡田 速 岡田善敏 岡田美之
岡本英一 岡本久美子 奥岡啓子 奥村富枝 落合鈴枝 加藤潤子 加藤等次
加藤雅憲 金子律子 壁谷重美子 壁谷祥和 河江喜久代 鬼頭 弘 久納鉦一
畔柳英夫 小林元男 小南藤枝 小林彌壽昭 近藤洋一朗 斎藤雅喜 斉藤道也
榊原利修 佐藤久美子 佐藤徳次 佐分康之 沢井輝男 柴田みゆき 清水常次
白井直子 杉野文昭 鈴木幸子 鈴木 淳 鈴木秀樹 鈴木 学 鈴木万里亜
鈴木美恵子 諏訪 斎 芹沢俊介 高木典雄 高木順夫 瀧崎吉雄 瀧崎吉伸
竹内早一 竹田弘光 竹原芳子 龍川良克 田坪明子 田中郁子 塚本威彦
辻 敬一 恒川敏雄 土場トシ子 鶴岡佐知子 鳥居喜一 鳥居ちゑ子 鳥居栄一
中井三従美 中島ひろみ 中西普佐子 中根幸司 中村さとこ 中村裕治 永田晴美
永田芳男 名倉智道 夏目一平 西尾芳徳 西川勇夫 長谷川朋美 畑佐武司
花井隆晃 花岡 昭 浜島育子 浜島繁隆 林 彰一 原田 勉 半田多美子
日比野修 平嶋 敏 広部 栄 深見 弘 福岡義洋 堀田喜久 本多さおり
松井紀枝 松田ちか子 水谷善彌 水野岸子 水野峰子 武藤靖子 村瀬正成
村瀬美智子 村松正雄 山内富士子 山崎玲子 山田茂貴 山田初代 山田 弘
山田果与乃 横井邦子 芳山朋子 渡辺麻子 渡辺幸子
(五十音順、敬称略)
このほか何人かの方は、点数は少なくとも重要な標本を提供してくださった。それぞれの種について協力いただいた方は、「県内の分布」の項に、標本採集者として示されている。
これらの方々の中で、特に多くの標本を集積してくださったのは小林元男氏である。小林氏は県内で最も植物が多い東三河地方を中心に各地を克明に歩かれ、愛知県における植物調査の中心となって、多数の愛知県新産種を含む重要資料を採集された。改めて数えてみると、このレッドデータブック作成に用いた資料の半分以上は氏の採集によるものである。現地の状況等も、執筆を担当した芹沢が1995年頃から各種会議や標本管理等のために思うように野外を歩けなくなってしまったこともあって、氏からの伝聞に大きく依存している。また、千葉県立中央博物館の天野誠氏は、本来なら愛知県や名古屋市が責任を持って処理すべき故井波一雄、稲垣貫一氏の標本を精力的に整理され、資料調査に際してもいろいろ御支援下さった。特に記して、深く感謝の意を表する次第である。