大きくする 元に戻す
HOME > 調査結果 > コケ植物

コケ植物

1.愛知県におけるコケ植物の概況

 愛知県に生育するコケ植物(セン類とタイ類)の種数は、セン類が約443種((成田, 2012)にその後確認の2種を追加)、タイ類が177種(山田, 2018)である。
 愛知県は緯度から見て日本列島のほぼ中央に位置し、南は太平洋に面し、北は日本の屋根ともいうべき中部高山地帯を背負っている。したがって愛知県におけるコケ植物の自然分布は大観すると、南方から黒潮沿岸を伝って北上する南方系(暖地系、亜熱帯系、熱帯系)と北方高地から南下する北方系(寒地系、北周極系)とが交錯している地域である。
 一方、日本列島はかつて大陸と地続きであったことと関連して、東アジアまたは広く欧亜大陸との共通種も含んでいる。これらの交錯関係をさらに細かく分析してみると、コケ植物の分布は年間気温と降水量と絡んでいることが判る。愛知県の地勢は南に岡崎・豊橋平野、西に濃尾平野があり、北及び東北方向に次第に高度を増し、東北隅は長野県に接し、いわゆる奥三河山岳地帯となり、県内最高点の茶臼山(1,415m)となっている。東部も静岡県に接して弓張山脈が続いている。このように北と東に山を負い、西と南に低くなった地形は年平均気温の分布に現れており、知多、渥美の両半島及び三河湾奥に沿った地域が最も暖かく、東北隅の山岳地帯が最低となっている。
 ただ、豊川に沿った地域では等温線が上流に向けて深く入りこんでいて、温暖な地域が上流に延びている。コケ植物の分布を支配するもう一つの条件は湿度であるが、県内における年間の降水量の分布は、濃尾平野の東部から西三河の西半にかけて広がった丘陵地帯が最も乾燥していておよそ1,400mm程度、この地域から周辺に向けて次第に高くなっている。東北方向へは特に高くなり、最奥の茶臼山付近では2,700mmに達している。
 以上のような愛知県内の気象配置は、コケ類の分布に密接に関係を持っている。冷涼多湿な気象をもつ奥三河地帯は北方系コケ類の宝庫であり、温暖多湿の気象をもつ豊川上流地域は鳳来寺山一帯を中心として南方系コケ類の宝庫である。この事は、温暖多湿な環境を如実に指標する生葉上タイ類(カビゴケ、イボケクサリゴケ、ヨウジョウゴケ、ウニバヨウジョウゴケ等)が、鳳来寺山をはじめとする豊川上流一帯に豊富に発見されることによっても知ることが出来る。
 なお、コケ類の分布には気象条件と並んで地質条件も大きく関与している。殊に顕著な例は、石灰岩地域にいわゆる好石灰岩性の特有なセン類フロラが出現することで、県内では石巻山一帯、渥美半島の一部、新城市の桜淵、北設楽郡東栄町の一部など石灰岩の露出地域に特有なセン類フロラが成立している。
 以上の他にも、土地的条件としてコケフロラと関与するものとしては、好湿性の湿地群落が挙げられる。その代表はミズゴケ類が主な構成要素となる湿地または湿原群落である。県内には奥三河山岳地帯、鳳来寺一帯の暖帯林、平野部の低地湿地などに、それぞれ特徴あるミズゴケ類の湿地が成立している。

2.愛知県における絶滅危惧種の概況

 前項において愛知県に見られるコケ植物全般について、環境的にどのような分布パターンが見られるかを示したので、ここでは愛知県として、絶滅危惧と評価された種が、どのパターンに多いか考察してみる。
 最も多数を占めるのは、茶臼山、段戸山、白鳥山等を含む北設山岳地帯に見られる北方系のセン類で、ハリミズゴケ、ホソバミズゴケ、イボミズゴケ、ウロコミズゴケ、クロゴケ、ウチワチョウジゴケ、フウリンゴケ、イボタチゴケモドキ、コセイタカスギゴケ、ヒカリゴケ、エゾチョウチンゴケ、フジノマンネングサ、オオミミゴケ、ホンシノブゴケ、タチハイゴケ、シノブヒバゴケ、イワダレゴケ等がその例である。愛知県コケフロラの中で、北設山岳地帯が如何に重要であるかが窺える。
 次いで多いのが、鳳来寺山を含む豊川上流地域に見られる南方系のもので、ホソベリミズゴケ、クマノチョウジゴケ、コバノイクビゴケ、クマノゴケ、イサワゴケ、タチチョウチンゴケ、カワブチゴケ、ヒメハゴロモゴケ、トサヒラゴケ、イバラゴケ、ヤクシマツガゴケ、コキジノオゴケ(以上セン類)、カビゴケ、ヨウジョウゴケ、オオシタバケビラゴケ、シフネルゴケ等(以上タイ類)がこれに属する。
 また、豊田市の王滝渓谷には、ホソオカムラゴケ、イトゴケなど、湿度の高い渓谷の樹上に生育するセン類が見られる。
 その他に、絶滅危惧種として注目されるのは石灰岩地域に出現するもので、マルバホウオウゴケ、サンカクキヌシッポゴケ、セイナンヒラゴケ、キブリハネゴケ(以上セン類)がその例である。
 その他、人里近い所の樹皮に着生するもので稀品に属するものとしては、キサゴゴケ、キブネゴケ、イトヒバゴケ、オオミツヤゴケ等、同じく人里近くの沼、ため池、水田等で見られるタイ類のウキゴケ等が挙げられる。

3.愛知県コケ植物(セン類)レッドリスト

 科の配列と名称、種の和名・学名は、原則として「日本の野生植物 コケ」(岩月ほか, 2001)に従った。科内の種の配列については、学名のアルファベット順とした。

4.愛知県コケ植物(タイ類)レッドリスト

 科の配列と名称、種の配列及び和名、学名は、原則として「グリーンデータブックあいち2018 タイ類・ツノゴケ類編」を基に、新しい知見(片桐・古木, 2018)を加え整理した。