維管束植物(種子植物・シダ植物)
1.愛知県における維管束植物の概況
愛知県に野生状態で生育する維管束植物(種子植物とシダ植物)は、グリーンデータブックあいち2017維管束植物編によれば、表6のとおりである。
日本に本来自生する維管束植物は約
7,000種(亜種・変種を含む)、それに対して愛知県の自生在来種は2017年以降に存在が明らかになったテンリュウヌリトラノオを含めて2,434種であるから、その約35%が愛知県に自生していることになる。
植物群 | 小葉植物 | 大葉シダ 植物 |
裸子植物 | 被子植物 | 計 | |||
原始被子 植物 |
単子葉類 | 真正双子 葉類 |
||||||
在来 | 種※1 | 20 | 301 | 33 | 59 | 875 | 2,063 | 3,351 |
品種※2 | 0 | 12 | 1 | 2 | 44 | 218 | 277 | |
雑種 | 2 | 107 | 1 | 3 | 32 | 97 | 242 | |
計 | 22 | 420 | 35 | 64 | 951 | 2,378 | 3,870 | |
外来種※3 | 2 | 10 | 14 | 15 | 227 | 717 | 985 | |
※1:亜種・変種を含む。 ※2:園芸品種を含む。 ※3:内数である。帰化種のほか、国内移入、園芸植物起源で雑草化していないもの、多量に野外植栽されているもの等を 含む。 |
この数は、隣接する静岡県や長野県には及ばないが、全国的に見ればそれほど少ない数ではない。
愛知県の最高点は茶臼山の1,415m にすぎないが、それでも中部山岳地帯の南端に位置し、木曽山脈の中心部まで山続きである。天竜川の谷をはさんで、赤石山脈南部とも接している。
そのため、かなりの温帯性植物や東日本系の植物が、愛知県まで辛うじて到達している。一方、渥美半島は黒潮 が洗う温暖な地であり、豊川の谷も冬季の季節風が入らないため温暖で、それなりに暖地性の植物が生育している。
本州脊梁山脈の切れ目に当たる関ヶ原に近いため、太平洋側にありながら、日本海系の植物もいくつか生育している。地質的には県の南東部を中央構造線が走り、西日本系の植物もある程度見られる。濃尾平野の木曽三川下流部は三角州地帯で、もともとは広大な低湿地が広がっていた場所である。
三河湾は深く内陸に入り込み、水深が浅く、塩湿地が発達している。このため、低湿地性・塩湿地性の植物も一通り見られる。尾張西部から西三河東部にかけての東海層群の丘陵地は森林の発達が悪く、やせ山の中に小湿地が点在しており、東三河にはチャートや流紋岩、石灰岩の岩山、蛇紋岩地などもあって、非森林性植物の宝庫である。
シデコブシ、ウラジロギボウシ、シラタマホシクサ、ホソバシャクナゲ、ナガボナツハゼなどの固有種、ヤチヤナギ、マメナシ、ヒトツバタゴ、ヒメミミカキグサなどの著しい隔離分布種もかなりある。
そのため、愛知県に生育する維管束植物の種類数はかなりの数になる。しかし、他県から来た人が県内を歩き回ってみても、とてもこれほどの種類数があるとは思えないだろう。愛知県は良好な森林が少なく、植物相は一見したところかなり貧弱である。
特徴的な植物は、ほとんどがあちらに1株、こちらに1株というように、僅かに生育しているだけである。全国的に見れば普通種なのに、愛知県では極めて稀という植物もかなりの数になる。種類数はまあまああるが、個体数が少ないというのが、愛知県の植物相の基本的な特徴である。
以下に、県内を山地、丘陵地、平野部、海浜に分け、それぞれを更に森林、草地・岩崖地などの乾〜中性の非森林域、湿地、水界に分けて植生と植物相の概要を記述するが、ここに例示したような植物は、ほとんどが絶滅が危惧される状態である。
○ 山地の植物
【 森林 】
県の北東部を占める三河山地は、天竜川沿いの一部地域と鳳来寺山周辺を除けば全体的になだらかな地形をしており、山間部に集落が点在している。そのため自然林はほとんど残存しておらず、大部分がスギ、ヒノキの造林地か、落葉広葉樹の二次林になっている。設楽町段戸山にはまとまった自然林があったが、第二次世界大戦後に伐採され、現在では裏谷の一部が学術考証林として残されているにすぎない。豊田市(旧稲武町)面ノ木峠には小面積ながらブナの自然林が残されており、そのほか断片的ではあるが、ウラジロモミ、コウヤマキなどの林もある。暖帯域では、新城市(旧鳳来町)の一部などに自然度の高い林が残されている。
三河山地は中部山岳地帯の南端に位置しており、中部山岳地帯には比較的普通に見られるが、それより南には分布していないシラカンバ、ウダイカンバ、ベニバナイチヤクソウ、セリバシオガマ、ヒメマイヅルソウのような温帯性植物の南限になっている。ヤマクワガタ、オクヤマコウモリ、ユモトマムシグサのような中部地方固有種のいくつかも、その南限が辛うじて愛知県に達している。ハイイヌガヤ、サワアザミ、ホソバカンスゲなどの日本海系の植物も見られる。愛知県とその周辺の山地森林に固有な植物であるミカワコケシノブ、トヨボタニソバ、キバナハナネコノメ、エンシュウツリフネ、タチキランソウ、ダンドタムラソウ、ワタムキアザミなども、いずれも温帯域に生育している。
一方、新城市(旧新城市から旧鳳来町にかけて)の豊川の谷は、冬季の季節風が吹き込まないために温暖で、タキミシダ、イヨクジャク、バリバリノキ、ミヤマトベラ、ナガバジュズネノキ、ルリミノキなどの暖地性の植物が生育している。東三河のチャボシライトソウ、カミガモシダ、西三河のシロバイなども分布域の東限、またはそれに近い。ただし、愛知県では中央構造線南側に大きい山がなく、クサヤツデ、テイショウソウ、チャボホトトギスのような種は生育していない。低山地の森林に見られる温帯性植物としては、東三河の一部に、著しい隔離分布となるミヤマキヌタソウが僅かに生育しているのが特に注目される。
【 草地・岩崖地など 】
鳳来寺山周辺は古い火山で、流紋岩や安山岩の岩山が多く、ホソバシャクナゲ、ウラジロギボウシ、コフキイワギボウシ、ビロードノリウツギ、クロバナキハギなどの固有種・準固有種が生育している。エゾノヒメクラマゴケ、キンキマメザクラ、イワシャジン、ゼンテイカなどの南限にもなっている。崖下には夏でも冷たい風が出る風穴が点在しており、ホソイノデ、ミヤマワラビ、ミツバフウロ、ハシドイなどの温帯性植物が生育している。鳳来寺山系以外の岩崖地では、天竜川に面した岩尾根に、分布域の南限となるオノオレカンバが見られる。石灰岩地は、愛知県では小規模なものが点在しているにすぎず、特徴的な植物もそれほど多くないが、コバノチョウセンエノキは分布域の東限にあたる。温帯性のイワシモツケも見られる。木曽川、庄内川、矢作川、豊川などの河川中流域の渓岸にはヤシャゼンマイ、サツキ、サワヒメスゲが多く、アオヤギバナ、キイイトラッキョウなども生育している。
一方中央構造線沿いには蛇紋岩、かんらん岩などの超塩基性岩地が点在しており、半裸地状の草地や疎林となっていて、ジングウツツジ、シマジタムラソウなどの固有種やミシマサイコ、ムラサキセンブリ、ヤマジソ、マツムシソウ、ヤナギノギクなどが生育している。トサオトギリ、ヒゴタイ、ヒメユリなども生育していたが、すでに絶滅して現在は見られない。中央構造線南側はチャートの岩山が多く、固有種のナガボナツハゼ、イワタカンアオイ、分布域の東限に近いキスミレなどが生育している。ただし、山地の尾根部などで集落共同の採草地とされてきたカヤ場は、利用の停止に伴い森林化が進み、ほとんど消失している。ムラサキ、シオガマギク、ノコギリソウ、モリアザミ、ヒメヒゴタイなどの草地性植物は、ほとんどが絶滅、またはそれに近い状態である。
【 湿地と水界 】
三河山地の準平原には、ヌマガヤが優占する中間湿原が点在している。特に設楽町名倉地区と新城市(旧作手村)には規模の大きいものがあったが、いずれも終戦後の食糧難の時代に開拓され、中心部分は消滅した。これらの湿原にはヤチシャジン、ミコシギクなどの大陸系の植物やサギスゲ、ミタケスゲ、ヌマクロボスゲ、ヒメザゼンソウなどの寒冷地系の植物が生育しており、コバイケイの一型であるミカワバイケイソウも多かったが、その多くは絶滅し、あるいは僅かに残存しているだけである。本地域の代表的な固有種の一つであるハナノキは、県の木に指定されているが、県内では自生のものは少なく、小群落は豊根村の1カ所だけで、あとは単木状態である。山地の水界に生育する植物としては、コバノリュウキンカ、ウキガヤが注目される。
○ 丘陵地の植物
【 森林 】
丘陵地では、豊橋市の太平洋(表浜)に面した急傾斜地に自然度の高いシイ林が点在しているほかは、小規模な社寺林を除けば照葉樹林はほとんど残存していない。大部分はコナラ、アベマキなどの落葉広葉樹二次林かアカマツ林であったが、薪炭林としての利用の放棄やマツノザイセンチュウによるマツ枯れに伴って遷移が進行し、明るい林床を好む植物が激減する反面、ムヨウラン類、ホンゴウソウなどのよい生育地になっている。ヒメイカリソウ、アキチョウジなどの西日本系の植物や、スミレサイシン、コタチツボスミレ、オオタチツボスミレ、イワナシなどの日本海系の植物も生育している。エビネ、キンランなどは二次林の林内に多かったが、園芸目的の採取により急激に減少した。
西三河西部から尾張東部にかけての東海層群の丘陵地は、地形はなだらかであるが植生の発達が悪く、尾根部などのやせ地は貧弱なアカマツ、ソヨゴなどの林になっていることが多い。このような場所では、フモトミズナラと呼ばれるミズナラの低地型、ネズミサシとハイネズの浸透交雑に起源するオキアガリネズ、ミカワツツジと呼ばれるヤマツツジの一型などが多く見られる。
【 草地・岩崖地など 】
丘陵地の里草地は急速に減少しているが、それでも全国的に見れば状況がよい方で、まだキキョウ、オミナエシなど多くの草地性植物が生育している。ただし、オキナグサなどは、愛知県でもほぼ絶滅状態である。東海層群の丘陵地では、尾根部の半裸地に大陸系の植物であるウンヌケが多く生育している。水田周辺などのやや湿った草地には、ケブカツルカコソウなども見られる。愛知用水などの幹線水路沿いは定期的に草刈りが行われるため、ヒロハノカワラサイコ、イヌハギ、カセンソウなど多くの草地性植物の逃避場所になっていた。しかし、近年水路のコンクリート護岸化が進行し、これらの植物の多くは危機的な状況である。知多半島先端部の人里周辺の路傍などには、キビシロタンポポと共に、分布域の東限となる黄花型のヤマザトタンポポが生育している。
【 湿地 】
東海層群の丘陵地では、その中の粘土層が不透水層となって、全体に乾燥した中に湧水に涵養された小湿地が点在している。チャートの岩山の麓でも、岩盤が不透水層になって湿地ができる。典型的な場所では、湧水の水質はほとんど雨水と変わらないほど貧栄養で、湿地の中心部はミミカキグサ類やケシンジュガヤ、イトイヌノヒゲなどが点在するだけの裸地状となっている。その周辺にはミカズキグサ、ヌマガヤなどが群落を作る。やや富栄養の場所は、イヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲなどの群落になる。このような湧水湿地とその周辺には、シデコブシ、シラタマホシクサ、ヘビノボラズ、ナガバノイシモチソウ、クロミノニシゴリ、ミカワシオガマ、シマジタムラソウなどの固有・準固有種に加えて、ヒメミミカキグサ、ミカワシンジュガヤなどの熱帯系の種、ヤチヤナギ、イワショウブ、ミズギク、ミカワバイケイソウなどの寒冷地性の種、マメナシ、ヒトツバタゴ、ミコシギクなどの大陸系の種が生育している。
【 水界 】
丘陵地には小規模なため池が点在しており、ヒメコウホネ、ガガブタ、ミカワタヌキモ、ヒメタヌキモ、マルバオモダカ、マルミスブタ、オオトリゲモ、ムサシモ、イバラモなどが生育している。秋期に水が干上がった時には、底土上にヌマカゼクサ、ウキシバ、メアゼテンツキ、クロテンツキ、アオテンツキなどが群落を作り、分布域の東限となるオオホシクサのほか、クロホシクサ、トネテンツキ、オオシロガヤツリなども生育する。谷戸田やその周辺の浅い水路などの水中には、セトヤナギスブタ、ヒロハトリゲモなどが見られる。
○ 平野部の植物
【 森林 】
平野部の社寺林では、ウスバシケシダが点在しているのが注目される。河川高水敷の林内には、時にアイズスゲのような、山地性の植物が生育していることがある。
【 草地・岩崖地など 】
平野部の非森林植生としては、木曽川下流部の河岸砂丘が特徴的である。ここでは、カワラアカザ、ビロードテンツキなどが生育している。扇状地に発達する礫の河川敷には、カワラサイコ、カラメドハギ、カワラハハコ、カワラヨモギなどが群落を作る。河川の堤防も平野部では貴重な草地で、カワラマツバ、コケリンドウ、スズサイコ、ヒメシオンなどが見られる。人里周辺の攪乱地に生育する植物の中では、ツクシメナモミ、オナモミなどが注目される。
【 湿地 】
濃尾平野の木曽三川下流部は、日本でも有数の湿地帯であったが、明治改修により大きくその姿を変えた。現在では、河川敷などに昔の面影が残されている。中小河川では、五条川が特に重要である。この地域では、キヌヤナギのほか、マルバタネツケバナ、キソガワシシウドと仮称した固有分類群がある。エキサイゼリも関東地方以外では唯一の自生地であり、東日本系のシロバナタカアザミ、西日本系のホザキマスクサなども見られる。絶滅危惧種の例としてよく取り上げられるフジバカマも点在している。ただし、ヒキノカサ、ノカラマツ、ハナムグラ(岐阜県側にはある)、タチスミレなどは現在のところ発見されていない。矢作川、豊川の河川敷は、木曽川に比べれば規模が小さいが、シロネは現在のところ矢作川と境川で確認されているだけである。デンジソウ、サンショウモ、ミズタガラシ、ミズネコノオ、オオアブノメ、ミズアオイ、ミズタカモジなどは湿田の雑草であったが、乾田化により急激に減少した。
【 水界 】
平野部の小水路やため池には、オニバス、フサタヌキモ、アサザ、ヒメシロアサザなど多くの水草が生育しており、水草の宝庫であったらしい。しかし、伊勢湾台風の高潮で壊滅的な打撃を受けた後、水の汚染によって回復が進まず、現在ではほとんどの水草が絶滅状態である。トチカガミのようなものもあまり残っておらず、岐阜県側では大きな群落があるコウホネ、ササバモ、コウガイモなども愛知県では生育地が限定されている。
○ 海浜の植物
【 森林 】
愛知県は海岸部も全体的に開発が進み、本来の自然が残存している場所は少ない。しかし、三河湾の一部の小島には照葉樹の自然林が残されており、タチバナ、キノクニスゲなどの東限となっている。知多半島先端の師崎羽豆神社社叢にはビャクシンが自生状に生育しており、渥美半島先端部にはカンコノキ、ハクサンボクがある。
【 草地・岩崖地など 】
海岸部の砂浜や砂丘は、飛砂防止のためにクロマツの植栽が進み、本来の姿は著しく失われている。伊良湖西ノ浜では、かつてはタチスズシロソウ、ハマビシなどが生育していたが、絶滅した。恋路が浜にはハマオモトが生育していたらしいが、これは園芸目的の採取によって絶滅した。このほかの砂浜の植物としては、日本では他の場所で現存が確認できないハギクソウ、分布域の西限となるハマコウゾリナ、太平洋側のほぼ西限となるハイネズ、寒冷地の海岸に多いスナビキソウのほか、ハマネナシカズラ、イワダレソウ、ハマウツボ、ネコノシタ、ビロードテンツキなどが見られる。
海浜の岩崖地や風衝地には、ハマヒサカキ、ハチジョウススキ、ハマカンゾウ、アゼトウナなどが生育している。ただし、特徴的な植物はそれほど多くなく、ボタンボウフウ、イソギク、ヒゲスゲなどもごく僅かに見られるだけである。むしろ、ラセイタソウなどが生育していないことが特徴である。三河湾の篠島、日間賀島、佐久島などには、県内の他の場所ではほとんど見られないハチジョウイノコヅチが比較的多く生育している。
【 湿地 】
三河湾奥部の塩湿地は、埋立てにより相当部分が消失している。僅かに残された部分には、分布域の東限となるヒロハマツナ、フクドのほか、イソホウキギ、ハマサジ、シバナ、ハマボウ、ヒメヨモギ、ウラギク、イセウキヤガラなどが生育している。伊勢湾では塩湿地はほとんど残存しておらず、貯木場跡などの二次的な場所も最近の開発で急速に消滅した。現在では僅かにウラギク、イセウキヤガラなどが見られるにすぎない。水路わきや養魚場跡の湿地には、チャボイなどが生育している。
【 水界 】
海岸近くの小水路、養魚場跡などには、カワツルモ、リュウノヒゲモなどが生育している。これらの水草は減少傾向が著しいが、一部にはまだ大きい群落がある。海域の水中に生育する海産種子植物はもともと種類数が少なく、愛知県では、内湾性のアマモ、コアマモ、ウミヒルモ(絶滅)、外洋性のエビアマモの
4 種が記録されているだけである。
2.愛知県における絶滅危惧種の概況
今回のリストに掲載された絶滅危惧Ⅱ類以上の絶滅・絶滅危惧種は、11頁の表5に示すように516である。この数は、愛知県の本来の野生植物種2,434の21.1%にあたる。準絶滅危惧種、情報不足種を含めた数は630で、全体の25.9%にあたる。環境省のレッドリストでは、絶滅危惧Ⅱ類以上が1,825で総数約7,000の約26%、準危惧種・情報不足種を含めた数は2,159で約31%となっており、比率としては愛知県の方がやや低めである。この原因は、主として環境省版では対象地域の中に南西諸島、小笠原諸島などの絶滅危惧植物の割合が極めて高い地域を含むことによると思われるが、一部は不十分な数値情報をもとに評価が行われたため、どう見ても絶滅危惧植物には該当しそうもない種が混入していることにもよる。
植物群毎に見ると、園芸目的で採取されることが多いラン科、ユリ科、水草や湿地性植物の多いトチカガミ科、ヒルムシロ科、イバラモ科、ホシクサ科、カヤツリグサ科などを含む単子葉植物は、他の群に比べて絶滅危惧種の割合が高くなっている。ラン科は特に絶滅危惧種の割合が高く、愛知県の自生種総数
83 のうち 53 が今回のリストに掲載されている。
カテゴリー毎の割合を見ると、準絶滅危惧種と情報不足種を含めた総数 630
のうち、絶滅(EX)は47(7.5%)、絶滅危惧ⅠA類(CR)は105(16.7%)、絶滅危惧ⅠB類(EN)は175(27.8%)、絶滅危惧Ⅱ類(VU)は189(30.0%)、準絶滅危惧(NT)は111(17.6%)、情報不足(DD)は3(0.5%)である。
一方、環境省のレッドリストでは、絶滅・野生絶滅は
39(1.8%)、絶滅危惧ⅠA類は525(24.3%)、絶滅危惧ⅠB類は520(24.1%)、絶滅危惧Ⅱ類は741(34.3%)、準絶滅危惧は297(13.8%)、このほかに情報不足(DD)として掲載されたものが37あり、全掲載種数は2,159である。両者を比較すると絶滅・野生絶滅の割合は愛知県の方がかなり高く、これは対象面積の狭さと、大都市近郊という地理的な特性によるものと思われる。
絶滅危惧ⅠA類の割合は逆に愛知県の方がかなり少ないが、これは資料編で述べたように、評価手法の差によるものと考えられる。環境省はIUCNのE基準を優先的に用いたとしているが、常識的に考えて、10年後の絶滅確率が50%の絶滅危惧ⅠA類と20年後20%の絶滅危惧ⅠB類がほぼ同数ということはあり得ない。
そもそも、絶滅危惧ⅠA類が500種以上もあれば、多少保護策がとられたとしても、10年後には100種くらいは絶滅してくれないと話が合わないが、現実にはそのような事態は起きていない。
環境省の手法は、日本の生物多様性が維管束植物のような生物群でもまだ十分解明されていないことを無視したもので、その点でどう見ても不適切である。
減少の要因は種毎にそれぞれ記述したが、全体としてみると里山の二次林や草地の利用停止に伴う遷移の進行(造林地の手入れ不足による被陰を含む)、開発による生育地の破壊(水の汚染による生育環境の破壊を含む)、園芸目的の採取が、植物を絶滅の危機に追い込んでいる三大要因である。
このうち遷移の進行は、それ自体は自然現象である。しかし、遷移の進行が問題になる背景としては、その前段階として人間が生活域を拡大する過程でさまざまな遷移段階を含む本来の自然環境を破壊し、それらの植物のもともとの生活場所を奪って、彼らを薪炭林や採草地、あるいは造林地のような人為的環境に追い込んできたという経緯がある。
湧水湿地の植物にしても、治山事業等によって新たな湿地が形成される条件をなくせば、遷移に追われた植物は次の行き場を失ってしまう。このような見方をすれば、一部の先駆種的な植物以外の大部分の種については、遷移の進行も人為的環境破壊の一つの型と見なすべきである。
また、「レッドデータブックあいち2009」刊行後、特に顕著になったのがニホンジカによる食害で、三河山地の相当部分で林床植生がほぼ消失している。2009年版では「鈴鹿山脈や大台ヶ原山のような壊滅的状態になる前に、早く対策を講じる必要がある」と述べたが、危惧は現実になってしまった。
一方、環境省のレッドリストに掲載されているが今回愛知県で絶滅危惧種・準絶滅危惧種と判定されなかった植物も24種ある。これらの一部は、愛知県では絶滅が危惧されるような状態ではないが全国的には減少傾向の著しい植物で、その意味で愛知県においても「全国的に危急」としてリストに掲載し、保護の対象としてよい植物である。他の一部は、情報不足のため環境省のリストに掲載されたと思われるもので、これらは将来調査が進めば、リストから削除される可能性が高い。
しかし今回は、この両者を的確に区別するだけの資料がなかったので、「全国的に危急」というカテゴリーは設置しなかった。これら24種については、「国リスト」としてレッドリストに付録として掲載し、愛知県では評価対象としなかったニッケイ、ツツイトモ、ハマナツメ、サクラガンピと共に、「掲載種の解説」の章では他の掲載種とほぼ同様の形式で県内の状況を記述した。
なお、「レッドリストあいち2015」掲載種のうち、今回の見直しによってリストから除外された種とその理由は以下のとおりである。
除外種 | ||||
No. | 科 名 | 和 名 | 見直し前 県ランク |
除外理由 |
1 | バラ | バクチノキ | NT | 最近増加傾向にあり、リスト外と判断された。 |
3.愛知県維管束植物レッドリスト
科の配列と名称、種の配列及び和名、学名は、原則として「グリーンデータブックあいち2017維管束植物編」に従った。