両生類
1.愛知県における両生類の概況
本県には両生類2目8科23種類(外来種1種を含む)が生息し、その分布域は繁殖場所となる水域環境の有無に強く依存している。まず山地渓流の流水中やその周辺の伏流水中で産卵する種にはタゴガエル(ネバタゴガエル)、ナガレタゴガエル、アカイシサンショウウオ、ハコネサンショウウオ、ヒダサンショウウオ、ヒガシヒダサンショウウオ、マホロバサンショウウオ(旧コガタブチサンショウウオ)がある。また、同じく河川上流部でも、ある程度開けた河川に住む種にはオオサンショウウオとカジカガエルが挙げられる。河川源流部の湿地の一部にはミカワサンショウウオが生息している。山地の止水域にはモリアオガエルやヤマアカガエルが生息する。以上の各種の本県下における生息パターンは様々であるが、生息が丘陵地、山地に限られる点では共通しており、尾張、三河の平野部や知多、渥美半島にはもともと生息していないと考えられる。
一方、平野部側に偏った分布を示す種にはナゴヤダルマガエルとヌマガエルがある。この2種の生息地は丘陵地域にも点在してはいるものの、分布の中心は明らかに平野部にある。ニホンアカガエルもかつては平野部を中心とする分布傾向を示していたものと思われるが、現在では平野部の個体群が壊滅的な状態にあり、分布の中心が丘陵地にあるように見える。平野部や丘陵地の湧水湿地にはヤマトサンショウウオ(旧カスミサンショウウオ)が生息していたが、既に消失した産地が多く、現在残っている産地から過去の分布のありようを推測することは難しい。
本県下で、平野部から山地域まで広く分布している(いた)種にはアカハライモリ、アズマヒキガエル、ニホンアマガエル、トノサマガエル、シュレーゲルアオガエルが挙げられる。ただし、このうち現在でも全県的に普通種と言える種はニホンアマガエルとトノサマガエルのみであり、アカハライモリ、アズマヒキガエル、シュレーゲルアオガエルは平野部の集団の消失により、現在の分布は丘陵地、山地域に偏っている。北米産の外来生物であるウシガエルは、平野部から丘陵地までの止水域に広く生息し、生息地の小動物を貪欲に捕食するため、在来の生態系に甚大な影響を与えている。
本県は本州の中央部に位置するため、両生類相には東日本的な要素と西日本的な要素が入り混じっている点が興味深い。アカイシサンショウウオ、ヒガシヒダサンショウウオ、アズマヒキガエルは東日本の両生類相に含まれる要素と言え、本県の集団は西限またはそれに近い個体群である。一方、ナゴヤダルマガエル、ヌマガエル、ヒダサンショウウオ、マホロバサンショウウオ、オオサンショウウオ、ヤマトサンショウウオは西日本の両生類相に含まれる要素であり、本県の集団は東限またはそれに近い個体群である。
2.愛知県における絶滅危惧種の概況
本県に生息する両生類の中の絶滅危惧種を大別すると、以下のパターンに分けることができる。
(i)県内の著しく狭い地域(二次メッシュで1〜数メッシュ程度)にしか生息していない種
(i ’)本県固有の種及び形態型で、県外に同質の集団が見られない
(i ’’)県外には同種が広く生息しているが、県内ではごく一部に局在する
(ii)県内の比較的広い範囲に生息するが、その全域で絶滅が懸念される種
このうち、(i
’)は県内小集団の消滅がその種及び形態型の絶滅を意味し、他地域からの個体の流入も見込めないため、きわめて短期間に絶滅する恐れがある。この区分にはアカハライモリ渥美種族とミカワサンショウウオが該当し、いずれも絶滅危惧ⅠA類とされている。このうちアカハライモリ渥美種族は、かつては渥美、知多両半島に知られていたが、現在では知多半島の1地点に小規模な集団が残るのみであり、この地点も周辺の開発や耕作放棄により環境が悪化しているため、絶滅が強く懸念される。ミカワサンショウウオはこれに比べると生息地点も多く、生息環境も安定しているが、いずれの産地も小規模で、人工林に位置することから、環境改変の影響で容易に絶滅し得る種である。
一方、(i
’’)は、その種本来の生息範囲が本県域の辺縁部に若干かかっているために、県境付近の狭い範囲に局在して見られるというケースである。この場合、県境をまたいだ隣県域には多くの産地が見られることになる。具体的には、豊根村に見られるアカイシサンショウウオとナガレタゴガエル、豊田市旧小原村に見られるヒダサンショウウオ、尾張北部に見られるマホロバサンショウウオがこれに相当する。いずれも人工林の渓流源流部に生息し、生息地には大小の砂防施設が設置されているため、現在は比較的安定した環境に見えても、小規模な開発や改修で容易に個体群が消滅する可能性が考えられる。この中で、アカイシサンショウウオとナガレタゴガエルに関しては、隣接する静岡県域に多くの産地が知られているものの、それらとの間には天竜峡(佐久間ダム)が存在し、事実上県境を越えた個体の往来はほぼ不可能な状況となっていることが考慮され、絶滅危惧ⅠA類とされた。一方、ヒダサンショウウオとマホロバサンショウウオは、県境をまたいだ岐阜県側の集団とは山続きになっており、広い意味では単一の集団とみなし得る。このことを考慮し、この2種は絶滅危惧ⅠB類とされた。また上記以外に、オオサンショウウオも岐阜県境の木曽川頭首工の集団と瀬戸市蛇ヶ洞川の2集団しか見られず、このケースに近い。この種の場合も現状の確認地点数を考えると絶滅が危惧されるが、木曽川頭首工の個体が岐阜県内からの流下個体と考えられることや、瀬戸市の集団が保全活動により安定した状態にあると見られること等が勘案され、絶滅危惧ⅠB類とされた。
また(ii)に区分したように、生息域はある程度広域にわたっていても、その多くの地点で絶滅が懸念される種もある。中でも最も絶滅が懸念されるのがヤマトサンショウウオである。本種の生息範囲そのものは名古屋周辺から知多半島にかけてと、渥美半島にまたがっているが、湿地環境の悪化により各地域で激減しており、絶滅危惧ⅠB類とされた。特に知多、渥美半島の集団は危機的な状況にあり、このまま減少が続けば近い将来ⅠA類と評価せざるを得なくなるであろう。ナゴヤダルマガエルは、本県下では比較的安定した個体群が見られるが、過去と比較すると減少していると見られ、生息地のほとんどが人為的な水田環境にあること、西日本で壊滅的に減少していること等を勘案し、絶滅危惧Ⅱ類とされた。モリアオガエル、ヒガシヒダサンショウウオ、ハコネサンショウウオは、奥三河地域には安定した集団があり、ただちに絶滅が危惧される状況にはないが、生息域の面積と生息環境を考えると、今後絶滅危惧に陥る可能性もあり、準絶滅危惧種とされた。カジカガエルやアカハライモリ(渥美種族を除く)はこれらよりは広い分布域を持つが、近年の減少傾向が著しく、やはり準絶滅危惧種とされた。2015年版(レッドリストあいち2015)で情報不足とされていたヤマアカガエルとツチガエルに関しては、近年新たに情報が蓄積されつつあり(島田・坂部,
2014;島田他, 2015;島田,
2018)、両種とも丘陵地、山地域には安定した個体群があることや、ツチガエルに関しては西三河、東三河の平野部にも比較的広範囲に生息していることが明らかになったことを受け、今回のレッドデータブックの掲載種からは除外された。
【参考:除外種リスト】
「レッドリストあいち2015」掲載種のうち、今回の見直しによってリストから除外された種とその理由は以下のとおりである。
除外種 | |||||
No. | 目名 | 科名 | 和名 | 見直し前県ランク | 除外理由 |
1 | 無尾 | アカガエル | ヤマアカガエル | DD | 近年新たに情報が蓄積されつつあり、丘陵地、山地域には安定した個体群があることが明らかになった。 |
1 | 無尾 | アカガエル | ツチガエル | DD | 近年新たに情報が蓄積されつつあり、丘陵地、山地域には安定した個体群があることが明らかになった。また、西三河、東三河の平野部にも比較的広範囲に生息していることが明らかになった。 |
3.愛知県両生類レッドリスト
目及び科の配列と名称、種の配列及び和名、学名は、原則として「グリーンデータブックあいち2018 両生類編」を基に、新しい知見を加え整理した。