昆虫類
1.愛知県における昆虫類の概況
「愛知県の昆虫、上・下」(1990・1991)には、1980年代末までの記録6,063種がまとめられている。その後、30年近く経過し、その間に得られた膨大な生息情報を基に作成された「グリーンデータブックあいち2018
昆虫編」(間野編,
2018)には、愛知県内の昆虫の記録種として29目522科10,443種が掲載されている。長年にわたる多くの人の手による調査により、昆虫相全体、特にトンボ目やチョウ目、コウチュウ目やカメムシ目などは全国的に見ても精度の高い解明率といえる。一方で、未解明微小種を含むハチ目やハエ目、全国的にも研究者の少ないコムシ目やネジレバエ目などでは県内記録が比較的少なく、今後、さらに調査が進むことで、まだ多数の種が追加されるものと思われる。
2.愛知県における絶滅危惧種の概況
今回の成果から、以下の総合計214種が選定された。また、愛知県内では絶滅が危惧されるような状況にないものの、環境省レッドリストに掲載されている種23種についても「国リスト」として掲載した。
絶滅(EX) | 14種 | 準絶滅危惧(NT) | 90種 |
絶滅危惧ⅠA類(CR) | 17種 | 情報不足(DD) | 30種 |
絶滅危惧ⅠB類(EN) | 31種 | 国リスト種 | 23種 | 絶滅危惧Ⅱ類(VU) | 32種 |
絶滅種については、記録が途絶えて20年が経過し、近隣の生息地との分断により再度の分布が見込めないカワラハンミョウ、正確な記録が途絶えて50年経ち追加記録のないフタモンマルクビゴミムシが新たに追加された。この増加傾向は残念ながら今後も続くであろう。
絶滅危惧種にはコバネアオイトトンボなどのトンボ類をはじめ、スジゲンゴロウなどのゲンゴロウ類、またコバンムシなど水生昆虫が依然多く評価された。これは外来魚の放流なども含めた水域環境の劣化と、それに伴う生息昆虫の激減を如実に表している。特に湿地性種は現存する各湿地間の交流が保てるかどうかが、存続にとって最重要視すべき点で、一定エリア内にある程度の数の湿地が残されていることが必要であろう。
林にはかつてのように人手が入らなくなったため、樹林性種は比較的安定した傾向にあるが、逆に管理放棄や混交林の繁茂の影響が見受けられる種もある。また、全国的に広がるナラ枯れ、シカの個体数増加に伴う食害などによる食樹・食草の減少が、今後樹林性種の生存に悪影響を与える可能性は否定できない。
草原は単に草刈の対象としか扱われない風潮があり、面積減少や荒廃が極めて著しい。その結果、ホシチャバネセセリなどのセセリチョウやゴマシジミなど草本依存性昆虫は危機的である。河川や浜辺などに発達する草地や砂地などの裸地に生息するオオヒョウタンゴミムシ、シルビアシジミ、ニッポンハナダカバチなども同様で、草地や裸地あるいは氾濫環境の回復には一刻も猶予がない。知多半島や隣接する三重県で再確認されランクの下がったハマベゾウムシは例外的である。
元々どこにでもいた昆虫は、その生活環境が人工的に改変されたため生息できなくなり、細々と生きながらえることとなる。その結果絶滅危惧に瀕する状況に陥ると、それまで絶滅とは無関係であった採集圧が、絶滅に拍車をかけるということになる。絶滅をくいとどめる生態的な情報は、それら昆虫の採集を中心とする観察、比較、情報等の集積によって得られるにもかかわらず、結果として、採集を禁止せざるを得ないという負のサイクルへと向かうのであれば、非常に残念なことである。
絶滅危惧に瀕している種は、本来の自然保護はどうあるべきかを考え、今後どうすべきかを考えるさまざまな示唆を与えてくれる。
【参考:除外種リスト】
「レッドリストあいち2015」掲載種のうち、今回の見直しによってリストから除外された種とその理由は以下のとおりである。
除外種 | |||||
No. | 目名 | 科名 | 和名 | 見直し前県ランク | 除外理由 |
1 | チョウ | セセリチョウ | ヘリグロチャバネセセリ | CR | 名古屋大学にある本種の2頭の標本を披見したが、愛知県の個体ではなかった。 |
2 | コウチュウ | ヒメドロムシ | ミヤモトアシナガミゾドロムシ | NT | 矢作川において相当数の個体や生育適地が確認された。また、近年の研究でアシナガミゾドロムシのシノニムであると発表された。 |